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作品名 作者名 カップリング 作品発表日 作品保管日
ロニナナ連作1 540氏(22スレ目) ロニ×娼婦 2006/07/22 2006/07/22

朝の光に淀む、濃厚な、情事の名残っている空気が重い。
隣で寝そべっている女のくすんだ茶色の髪の間から、ぼんやりと紫の瞳が覗いている。
そう、あの瞳だ。
熱に潤み、情欲まで滲ませ、確かに自分を見つめていたあの目が。
どくんと吐き出したくなるような飢餓感に、ロニは自分の興奮を感じた。
それを無理矢理に押さえつけて、下に散らばった衣服を手に取る。
背を向けて、煙草に火を付けた女の髪は、緩くウェーブがかかっていて、
剥き出しの背中から腰は、淫靡な稜線を描いている。
やはりどこも似ていなかった。
あの一カ所を除いては。


繁華街を抜けて、裏通りをいくつか辿り、その場所の扉を開けたとたん、
彼は「優しいパン屋のお兄さん」でも「頼れる兄貴分」でもなく、ただ欲望を持てあました一人の男に過ぎなくなる。
だがなぜか、足を踏み入れたその瞬間に、ロニは出会って3年になる少女のことを思いだした。
12歳になった緋色の髪の少女は、自分がこういう類のことをしていることを知らないし、気付いてもいない。
もし知ったとしたら、いつもの軽いやきもちの時のように怒るのだろうか。
なんでこんなところに来てまで、乳臭さの残るような子供のことを思い出さなきゃならないのかと苦笑して、
ロニはカウンターに座る中年の女に取り次ぎを頼んだ。
「どの子がいいかねえ。そういえば、最近若い子が二人入ったんだけど……」
ぎいと扉の一つが開いて、仕事を終えたばかりらしい女がけだるそうに出てきた。
しどけなく着崩した薄い衣を羽織って、乱されてぐしゃぐしゃになった髪の毛を撫でている。
振り返ったその一瞬、吊り上がり気味の紫の瞳がこちらを見た。
「あの娘だ。あれがいい」
「ええ?あの子は今仕事が終わったばかりなんですよ。そう立て続けにはねえ」
「じゃあ、今日はもう帰るさ」
「それは困るよ、ちょっと待っといてくれ」
中年女は茶色い髪の女に話を付けに、立ち上がった。
少し離れたところで、なにやら小声で話している。
「まあ、いいか。あんたは明日休みだしね。もう一回頼むよ」
「はあい」
少々めんどくさそうな返事からすると、どうやら話がついて、結局こちらの要求に折れたようだった。
「じゃあ、お客さん。あんたはあの子の用意が出来るまで、先に部屋で待っていてくださいな。はい、これ鍵」
渡された鍵を持って、言われた部屋を開ける。
中には、簡素なベッドと、テーブルと椅子のセットが無雑作に置いてあった。
こういった部屋特有のどこか湿った臭いに、ロニは落ち着きを削がれていく。
テーブルの上に置いてある酒瓶から、酒を注いであおぐと、香りも何もなく、安酒に喉が灼かれるだけの味がした。
美味いとは到底言えない代物でも、今の状況にはむしろ似つかわしい気がして、
2杯目を空にしたところで女が入ってきた。
さっき見かけた時よりも、幾分髪を整えてきれいにしており、慣れた様子で戸を閉めた。
いつもなら、綺麗な女性がそばにいれば、くどくなりして、
断られるにしてもそれはそれで楽しい時間を過ごすのが信条の彼だが、
今はそんなことをする気はさらさら無かったし、だからこそ妓館に入ったのだ。
ただ、最近なぜか焦燥感も伴う、溜まりきった欲望を外へと出したいだけなのだから。

こちらを振り返った女が何事か言う間も待たず、ロニは無言で近づいて、女をベッドに押しつける。
安普請の寝台は、ぎしりと仰々しくいかがわしい音を立てた。
唯一の明かりであるテーブルの上のランプが、女の薄い布地に包まれてはっきりと分かる凹凸を、
オレンジ色の陰翳を付けて浮かび上がらせていた。
乱暴に夜着を剥ぐと、脱ぎやすい構造のそれは、腰元まで一気にずれる。
当然のようにそこにある豊かな乳房を揉みしだくと、女は媚びの混じる甘い声を出し始めた。
指で押せば、柔らかく埋もれながら押し返してくる胸に、ロニは顔を寄せた。
頂きに舌を這わせながら、軽く歯を立て、その度に上がる甲高い声を聞きながら、
彼は女から立ち上る、汗だけではない湿った匂いを吸い込んだ。
安い酒と女の匂いは、頭の中で混じり合い、鈍ってきた思考をさらにあいまいにする。
断片になりかけている思考をたぐり寄せながら、誘うようにうねる腰へと手をすべらし、
そのまま茂みへと手を伸ばすと、女は一際高い声を上げた。
すでに溢れている足の間をおざなりに弄り、足を掲げさせて、その上にのしかかる。
襞一つ一つの形まで露わになったそこに突き入ると、女は身を捩らすように小さく呻いた。
浅く動かせば、相手も合わせるように腰を揺らし、吸い付くように締め上げる。
女の顔へと視線を遣ると、見上げた瞳と目があった。
吊り上がり気味の、紫色の瞳を持つ目は、欲望に忠実であり、今は情欲を融かし込んでいる。
自分が欲しいと。
その視線に頭が灼ける。
なぜ、緋色の髪の少女は今ここにいないのだろう。
そのことがひどく理不尽に思えて、息まで小刻みに荒くなる。
ロニは一気に腰を引きつけて、律動を早めた。
女の甲高い声は、余裕のないすすり泣くようなよがり声へと変わっていく。
その声さえ、見つめる紫に対する不純物に思え、追い払いたくて、ロニは叩き付けるように腰を動かした。
体がぶつかる音も、馬鹿みたいに軋む寝台の音も、彼の耳には届かない。
下半身から上る快感と、体中に回った酔いで、意識が溶け出しそうになる。
組み敷く相手さえ消えて、目の前で、滲んだ紫色だけが揺れている。
女は背をしならせ、悲鳴のような声を喉から絞りながら、達した。
余韻でうねる胎内でまた彼も全てを放出した。
醒めていく視界に茶色い髪が映り、興奮が引き去っていくのと同時に、
呻くように呟いた名にも気付かないまま。

「ああ、痛いな、もう。いくら溜まってるっていったって、強くやりすぎだよ。
兄さん、がたいもいいし、筋力もあるんだからさ」
そう言う女の口調は、言葉とは裏腹に嫌味がなく、むしろさっぱりしている。
暗い中ではいくつか年上とも思えたが、明るいところで見れば、むしろこの女は自分より若いのかもしれない。
「悪かった」
ロニが苦笑しながら謝ると、
「ま、いいよ。いちおう最低限は気遣ってくれる分、マシな方だし、それに兄さん、色男だしね」
そう艶っぽく彼女は笑った。
女は煙草を灰皿でもみ消して、夜着を羽織りながら、彼に話しかけた。
「ところでさあ、あんた、あたしを抱きながら別の女のこと考えてただろう?」
ロニは水差しから飲んでいた水で、思わずむせそうになった。
「ごっ…、…ど、どういうことで?」
その様子をおかしそうに見つめながら、女は答えた。
「だってあんた、なんでだか知らないけど、あたしの目ばっかり見てるし、
それに最後、誰か女の名前呼んでたでしょ。くぐもってよく聞こえなかったけど」
意外なほど見抜かれていることに驚いて呆然としているロニには、返す言葉もない。
「ほんとは、お客の事情に首突っ込むのは、マナー違反なんだけどね。片思いなの?」
そう言って、彼女はさらりと何でもなさそうに尋ねてくる。
「片思いって言うか、なんて言うか……。とりあえず物理的に無理だな」
それ以前に、なぜ自分は真っ最中に彼女のことを思いだしたのだろう。
いくら自分が女に節操がないと言っても、子供を抱く趣味は今のところないはずなのだが。
まだ幼いとも言える大切な少女を、よりによって対象にするなんて、
自分のおそらく健全な常識からすれば、改めて罪悪感がこみ上げてくるようだった。
「不毛だねえ。じゃ、最後にアドバイスあげる。」
呆れたように笑っている彼女は、ロニの方を向いた。
笑うと細まる紫の瞳に、今は一つも共通点は見いだせなかった。
「それはまたご親切に、どーも」
「抱くんなら、全然似てない子の方がいいよ」
確かにそれは的確な指摘だった。
どんなに似ている女も彼女ではないし、似ている分だけ否応なしに罪悪感が増す。
最低あと数年は、抱くことなど不可能なのだから。
「相談料はまけておいてあげる。あんた、金には縁がなさそうだし」
そう言って女は、2本目の煙草に火を付けた。


外に出ると、普段通りの喧噪が周りに溢れている。
けれどロニは、洗い流しても、自分にはまだ名残がまとわりついているような気がした。
今日はパン屋の方も休みだが、さてどうしよう。
帰って、デュナミス孤児院の子供の相手をしてやるのが無難な選択肢ではある。
それとも、まだ「女」にもなっていないような少女に会いに行こうか。
幼い彼女はなんにも気付かないだろう。
いや、それとも案外聡い彼女なら気付くだろうか。
ロニはその思いつきに、薄く笑った。
その方がいいのかもしれない。
見知らぬ女の匂いを嗅いで、咲き急ごうとする蕾は早く綻ぶだろう。


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