総合トップSS一覧SS No.5-100
作品名 作者名 カップリング 作品発表日 作品保管日
無題 つきぢ氏 エロ無し 2006/08/12 2006/08/17

戦いがどれだけ激しかろうと、人の命がどれだけ散ろうと、
世界がどれだけ騒乱に包まれようと、日は空を巡り、また、いずれ顔を出すのだ。
朝は必ずやってくるのだ。
チュン、チュン。鳥の声。それは安らぎの音。
剣戟の鋭さもなければ、人を斬ったときの肌の粟立ちもない、安らぎの音。

「ジューダス、ジューダスッ! 朝よ、ジューダス」
リアラが扉をたたきながら呼んでいる。
「すぐに行く」
ペルソナを被る。リオン・マグナスという亡霊は、ジューダスという少年になる。

食堂に下りると、そこにはリアラが1人、ちょこんと腰掛けているだけだ。
もう2人は――彼女に訊ねるまでもないだろう。
彼女と向かい合って座る。
そして、沈黙。
何も言わない。リアラも、何も言わない。なぜ? 話す必要が無いから。
周囲には何組かの客の姿が認められる。談笑。食器と皿の触れ合う音。音、音、音。
朝の食堂は、騒々しい音に満ちている。
その中で、この席だけは明らかに異質だった。
ここだけが、周囲の空間から隔離されているのだ。
窓の外を眺めたままのジューダス。顔を伏せたままのリアラ。
何故彼女は顔を伏せる? それは自分が怖いからだ。
「ったく、英雄以前に朝寝坊を何とかしろ、お前はっ」
そんな声が聞こえたとき、リアラはまるでほっとしたかのように声のほうを振り返る。
見慣れた褐色の肌と銀の頭。それから、つんつん髪のたった金色の頭とが、じゃれあいながらやってきた。
「おはよう、ジューダス、リアラ」
カイルが元気よく声をかける。朝から元気のいいことだ。
この男には、全か無か――元気か、寝ているか、どちらかしかないのではないだろうか。
ともかく、これで全員の顔が揃った。
呼び鈴を鳴らすと、ウェイトレスがやってくる。

「こいつ、オレを言うに事欠いてカンバラーベアと間違えて、蹴りかかってきやがったんだ」
フランスパンを飲み込むが早いか、ロニがそうぼやいて、隣に座ったカイルのハリネズミ頭をわしっとつかむ。
「いてえ。なんだよ、寝ぼけてたんだから、仕方ないだろっ」
カイルはいたく不満な様子で、自分の頭を押さえるロニの腕をつかむと、抗議した。
「寝ぼけてたで済まされたら、衛兵はいらねぇんだよっ。さっきのお返しだ!」
ロニの見事なヘッドロックが決まる。
やれやれ。湯気を立てるコーヒーをこくんと一口飲みながら、ジューダスは視線だけを、隣でじゃれあうバカ2人に向ける。
と、そのときだった。
2人のやり取りに、今まさにボイルウインナーを口に含んだところのリアラが、吹き出した。
「んっ――」
その拍子に、既に飲み込んでいたウインナーをつまらせたと見える。
表情が突然苦しげになり、薄手の桜色の衣装の上から、胸を叩いた。
思わず、ドキッとした。
苦しげな彼女の色白な顔は、真っ赤に染まっていた。太いウインナーをくわえたままで。その構図は、まるで――
「あ、リアラ、大丈夫っ? ほら、水、水」
カイルが慌てた様子で、手元にあったお冷を差し出した。
リアラは口からくわえていたウィンナーを落として、お冷を一気に口に流し込む。
そして、大きく息をついた。どうやら、おさまったらしい。
「もう、ロニっ。危うくリアラが死ぬところだったじゃないかっ」
またもカイルとロニのないやり取りが始まった。
けれど、ジューダスはそれどこではなかった。
太いウィンナーをくわえて、顔を真っ赤にしている少女の姿。一瞬だけ見えたその姿は、
ジューダスの脳裏に深く焼きついてしまっていたのだ。
「ジューダス」
静かな声がかけられる。ハッとして、彼女をむいた。
「どうしたの」
リアラが声を掛けてきたのだ。
「いや、なんでもない」
「そう」
つい先ほどまでそれをくわえていたリアラの唇は、水に濡れて、艶やかで、なんとも妖艶に見えた。
あの唇で――
ジューダスの下半身で、それは痛いほどに反応してしまっていた。


それが、始まり。


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