総合トップSS一覧SS No.6-065
作品名 作者名 カップリング 作品発表日 作品保管日
無題 ハッサム氏 ジーニアス×プレセア 2007/09/18 2007/09/21

楽園とも言われるほど、この世で美しい景観に恵まれる土地、アルタミラ。
この街に来たことがあれば、それだけで実業家のような経歴の持ち主、名立たる富豪や教科書に載るような肩書きを持つものにとっては、
婦人の指にはめる宝石の数にも勝るステータスだ。
長い休みが取れると誰もがここに行きたがり、帰るときには再びここに来ることを期待し、その日を常に待ち続ける罪な街。
世界有数の娯楽施設を整えたこの街の中でも、目立つ高さを誇るホテルの一部屋の中、
幼いけど年の差カップルが一つの布団の中でお互いの身体をまさぐりあっていた。


男の方が腰に力を込めると、女性の方は強く震えた。
「ジーニアス………」
「な、なにプレセア!? ひょっとして・・・痛かった?」
「はい。でも、これが性行為のときの痛みなんですね
あまり慣れたものではありません」
(どうして、プレセアってこういうのかな〜)
ジーニアスとプレセアの見た目幼い二人は、まだ発達しきっていない身体を結んだ。
痛いといいつつ、プレセアの表情からはそのようなものは一切見られず、いつも通りに冷静な表情をしていた。
気持ちいいのか悪いのかも分からない。口では痛いといっているが、本当に痛いのかと疑いたくなる。
それでも、ジーニアスは好きな女子を女にしたということに喜びを噛み締めていた、
そして、自分も童貞から男になったという感動が強く出てきた。
「気・・持ちいいよ」
プレセアの幼い膣の締め付けが、自分のまだ剥けていない肉棒を圧しつけ、精神的に大人になったという喜びを快感で受け入れた。
しかし、自分の下にいるプレセアは、ジーニアスの肉棒を受け入れた影響がまだ消えていない。
自分の上にいるジーニアスが、腰を激しく打ちつける度に、身体の奥底から鋭い痛みが快感の上に乗っかり、彼女を痛みつけた。
「私は気持ちよくありません。痛くて、ジーニアスの言葉に返事をするのが精一杯です。
でも、抜かないでください。僅かな情報ですと、そのうち気持ちよくなります。」
「で、でも・・・」
プレセアが痛みを感じるという事にジーニアスは戸惑いを隠せない。
女の子とセックスした、最初は喜んでいたが徐々に罪悪感が沸きあがり、怖くなってきた。
腰がひけて、プレセアの肩を掴んでいる手が震え始めた。
(やっぱり・・・ダメだよこんなの!!)
「抜かないで」という彼女の要望を聞くことなく、自分の肉棒を彼女の膣内から抜き取ってしまった。
「ご、ごめんプレセア! やっぱりまだ早いよね!!」
射精もしないうちに、ジーニアスとプレセアの初体験は終わってしまった。
「ジーニアス・・・?」
どうして自分が抜かないで欲しいと言ったのに、彼は無視して抜いてしまったのかプレセアは分からない。
プレセアの裸体をあたふたしながら眺めるジーニアス、焦点の合わないほど緊張していた。
その視線は、自分とプレセアが重なった処へと移って行った。
ほんの僅かな血と愛液。その二つの量はとても少なく、
膣から抜いたことに慌てふためいているジーニアスが見たのは、プレセアの膣の色と言っても過言ではない。

自分の膣への進入を許した相手にだから、見られても嫌と言うことは無い。
それでも、股間ばかりを見られると嫌ではないが恥ずかしくなった。
被処女となって見られたのは初めて、そう考えると、やっぱり手で覆い隠した。
「あの…ジーニアス、じっと見られるのは恥ずかしいです。」
「ご・・ごめんなさい!」
敬語を使って謝るジーニアス、でも彼の股間は全くというほど反省の色は無い。
挿入はしたが、射精を終えていないまま初体験を終えることに異議と未練があるのか、自己主張するように反り返っていた。
自分の処女膜を貫いたものをちらりと視界に入れると、すぐに納得したようにジーニアスに言った。
「そんなに大きいものなんですね。それなら処女膜を貫通したときのあの痛みも納得できます。
しかし、どうして私から抜いたのに大きいままなんでしょうか?
私が知っている知識では、女性から抜き取ると元の大きさへ戻ると聞いていましたが・・」
「えと・・それはその・・」
射精していないし、最近欲求不満だから――純情なジーニアスが、好きな子の前でそんな卑猥なことを言えるわけが無い。
(鎮まってよもう!! こんなままだとプレセアに嫌われちゃうよぉ〜!)
目を固く瞑り、いきり立ったままの自分の一物に向かって祈るものの、瞼の裏に焼きついた鮮明なプレセアの裸体はそれを鎮めるのを許さなかった。
しかも、悲しい男の性というべきか、好きな女の子にじーっと見つめられると、それだけで勃起が継続してしまう。
せめてプレセアに見られている状況だけでも何とかしようと、ジーニアスは急いで服を着ようと努力した。
慌てすぎたので、上着の一部がビリっと破けて、更に慌てた。
慌てれば慌てるほど切れ目は広がっていく。上着の四分の一ほどが広がったところで、ようやくジーニアスは服を着た。
滅茶苦茶な着方で、袖の部分には肘が当たり、襟は本来首の真後ろにある筈なのに右耳のすぐ下にあった。
服を着ると終わりという観念があったプレセアは、これで終わったんですねと解釈した。それでも、間違っていたら失礼なので一応聞いた。
「ジーニアス、これで終わりでしょうか?」
「え? あ、うん」
突然話を振られると、服をまともに着ることすら出来ないほど混乱中のジーニアスは、考える間もなく慌てて相槌をうった。
「そうですか・・終わりなら私も服を着ます。」
有言実行。プレセアはジーニアスとは違い、冷静にいつも通り服を着始めた。
そして、髪留めを外して髪を解くと、ジーニアスをじっと見た。
「もうすぐ日が変わりそうです、今日は寝ましょう。
それではジーニアス…」
「うん、おやす」
と言いかけたジーニアスの口を、プレセアが自分の口で塞いだ。
「っむぐ!?」
見る見るうちに頬を赤く染め、心臓の鼓動が弾けるように速くなった。
(キキキ・・キス!!? しかもプレセアのほうから、何で!? もう寝るだけって言ってたのに)
急に頭が冴えて、日常並に働いた。でもキスした理由はさっぱり分からない。
そりゃキスは初めてではない。いや、ほんの少し前までは初めてだったが、初体験の少し前に一度した。
ジーニアスが根性を振り絞って誘ったキス、それだけで彼は満足した気もした。
しかし、今回はジーニアスではなく、プレセアからのキス。
彼の頭では、キスは男から誘うものだという固定観念がこびり付いていたため、プレセアの行動は全く予想できなかった。
それでも、彼の腕は気がついたらプレセアの体の後ろに回って、彼女を自分の方へとひきつけていた。
こういう時は男がリードしなきゃ、というのもまた固定観念として、彼の頭にこびり付いていた。
と言っても、これ以上何をすることもないまま唇は離れ、突然のキスは終わった。
だが、ジーニアスにはプレセアを抱き締めた感触が残っていた。

唇を離すと、プレセアはもう一度「お休みなさい」と言って、ジーニアスの隣に敷かれているベッドへと入った。
ジーニアスにとっては、空からカエルが降ってくることの千倍驚いたことだが、
プレセアにとっては「恋人は、お休みのキスをするものだというのを、どこかで聞いたことがあります」という話に従っただけだ。
すぐに可愛い寝息を立てて、プレセアは眠りへ落ちていった。無表情のまま。今日が楽しい一日か、そうでもない日だったかも分からない
眠っているときでも、食事をしている時でも、初体験を迎えたときでも、プレセアは無表情だ。
セックスに関する知識も、どこかから聞いたようなものだけで、自分では殆ど考えていない受動的なものばかり。
その点は長い間クルシスの輝石によって成長が止まっていたことの影響が大きいかもしれない。
ジーニアスはその事をあまりいいと思っていない。
元々はメルトキオで一目惚れしたことから彼の恋心に火がついたが、やっぱり好きな子には幸せでいて欲しいという気持ちはある。
どうすれば幸せか? それは人それぞれだが、少なくとも人間らしい感情がなければ決してありえないことは分かる。
まずは、少しでもいいから感情をプレセアに持たせないと、と言うのがジーニアスの願いだった。
(はぁ……でもどうすればプレセアの感情を出せるんだろ? ロイドとかゼロスに聞いてみようかな・・・)
そうしたいと思うものの、何もできることが無い。初体験は失敗にも等しい終わり方、どうあってもプレセアの前では緊張してしまうし、緊張を隠せない。
(このままじゃ何年経ってもプレセアは変わらないよ・・・)
すやすや可愛い寝息を立てて眠る愛しい女の子の隣で、彼は射精に至らず悶々とした性欲と、どうやってプレセアを人間らしくできるか考えていた。
感情、感情、感情……プレセアの無表情を崩せば、少しずつ何とかなると思ったジーニアスは、
まず彼女に何か一つでもいい、人間らしい感情を植え付ければいいんだ、と思いついた!
・・・が、いきなり行き詰った。
感情を植えつけると一言で言うが、人の感情など千差万別で、それぞれの感情に更に程度というものがある。
程度が余程重くないと、プレセアの心に植え込まれることはなく、すぐに時間という風に吹かれて何処へと消えていく。何度も繰り返す手間をかけるなら別だが。
強烈な印象があって、しかも程度がかなり重いもの・・・それをジーニアスは眠れない頭で考えた(むしろ、そんなことを考えているから眠れない)。
(うあ〜〜〜、わかんないよ!!)
何のヒントも無いまま闇雲に探しても無駄、となれば過去の実体験から探し出すしかない。
ジーニアスが体験した12という歳月で、どれだけ彼女に感情を植え付けるほど強い刺激があるか?
―――意外なほど簡単に答えは見つかった。
それはたった今、隣で眠っているプレセアが、眠りに落ちる前に自分にしてきたこと。
お休みの前のキス。もちろんキスそのものをしたところで意味は無い、寝ているうちにやっても何ら効果は無い。
なら、起きているときに、勇気を振り絞ってキスしてみよう、とジーニアスは考えた。
ただするだけではダメだ、自分から誘うとか、強烈なインパクトを残さなければ。
例えば了承も得ないで勝手にするとか。
しかし、ジーニアスの根性ではそんなことは出来ない。
数十分前の初体験時はジーニアスから誘ったキスだが、その時も心臓ばくばく、汗だらだら、倒れる一歩手前の気分であった。
「プレセア・・・あの…
プ、プププ…ププププレ、プレセアとキスしていいかな」
と、許可を取るところから始めている。
当然だが、了解をとってから行動に移ったところで、いきなり行動をやるほどの効果は無い。
ドッキリを事前に知らせると、生のままの反応が撮れないのと同じ。あくまで内密に、内密に。
しかし、分かっていても事前に了解をとらなければジーニアスの良心が傷つく。
いきなりやらなければ効果は薄いのだが、良心がブレーキとなってそれを止めてしまう。
選ぶのが怖い・選ばないのも怖い。二つの葛藤の中、どちらも手放しには選べない二択を考えながらジーニアスは眠りにくい夜を過ごした。
(こんなときゼロスなら、いっしょの布団にはいっちまえよ、とか言いそうだよ・・・)
と考えると、すこし魘された眠りに落ちていった。


翌日、いつもより起きるのが遅いジーニアスを、きちんと朝支度を整えたプレセアが揺すって起こした。
ジーニアスは数秒前まで眠っていた。でも淡いピンク色のツインテールから漂う香りと、前日自分と繋がった口からの声を聞くと、一瞬で目を覚ました。
「お、おはよう!」
朝から顔を赤く染めると、プレセアは無表情のまま彼の目元をティッシュで擦り、目やにを取った。
「おはようございます。起きてすぐですが、目覚めはいいみたいですね。
ジーニアス、朝食を作りましょう。私、お腹減りました。」
相変わらず無表情で言われると反対をする気も起きない。
目覚めがいいとはいえ、起きたばかりでは消化液が胃に溜まっている為、むかむかしてそう簡単に食欲が沸くことは無い。
(でもプレセアと一緒に料理が出来るならいいかな)
と、男子らしい考えを秘めてパジャマの上からエプロンを身につけた。
それ自体が火のような熱さになるまで温めたフライパンの上にハムを置き、芳ばしい香りがしてくると卵をかけ、砂糖を少し入れてゆっくりかき混ぜる
しっかりと密封していたパックの中からパンを取り出し、それも一緒にフライパンで焼くと、キツネ色にこんがり仕上がったベーコンエッグパン。
あと簡易なサラダ作りにトマトやレタスなどを切って添えた。
適当に作ったようなものだが、朝から卵を摂ると身体の調子がよく整うため、朝食としては上々。
所要時間はそれほど長くないが、調理中の香りや油が跳ねる音なども組み合わさり、食欲がガンと沸いた。

テーブルに腰掛け、背筋がビシッとなるぐらい背もたれに背中をつけ、胸の部分はテーブルにピタリとつけた。
腰の骨に一切の曲がりが見られないのは、この姿勢を常に保っていられるように躾けた姉リフィルのおかげだろう。
「はい、これプレセアの分だよ!」
ベーコンを気持ち多めにプレセアに渡した後、コップを取り出してミルクを注いだ。
料理係になる事が多いジーニアスは仲間の飲み物の量を熟知していたので、相手の意見を聞くまでも無く適正な量を注げる。
プレセアは彼女のコップの半分より少し多い程度。一度に飲めて、あまり苦しくない量だった。
自分も背が高くなるために多く注ぐと、プレセアと乾杯をした。
その際、プレセアが珍しく感情を表した。不思議そうな眼をして、「どうして乾杯をするのでしょうか?」と聞いてきたのだ。
ジーニアスは少し俯いて、頬を通り越し、顔全体を耳まで赤く染めた。
「ジーニアス、なぜ照れているの?」
「あの・・ボ、ボクとプレセアが………その……『した』…ことについてだけど」
「・・・・・・」
回答を聞くと、プレセアはうーんと考え込んだ。

考えこんでから、返答までの時間はあまり長くないが、ジーニアスには十分なプレッシャーを与える。
Half-Elfと書かれたコップを持った手が、がちがちに緊張した影響を受け、小刻みに震え始めた。
どれほどの緊張かを例えるものを考えているうちに、プレセアはそのコップに、自分のコップを軽くチンとぶつけた。
「そうですね。私達は昨夜ジーニアスのベッドで結ばれたんですね。
それならば祝辞として乾杯なら納得がいきます。」
というと、自分のコップを一気に傾けた。あまり大した量ではないので、水を飲むようにすーっと飲み干した。
口の端に残ったミルクを丁寧に拭くと、まだ手が震えていて飲んでいないジーニアスに目を向けた。
「どうしましたジーニアス??」
「う、ううん、そんなことないよ!」
と言うと、自分もプレセアと同じように一気にコップを傾けた。
飲み終えて、空っぽになったコップにもう一杯ミルクを注いだ。
その間にジーニアスは、昨日のことを聞いた
「あ、プレ・・プププププレセア!
だ、だだ、だだ大丈夫? あそこ、昨日かなり痛がっていたと思うけど・・・?」
「・・・・」
「・・・・」
沈黙。
とんでもない質問をしてしまったと思ったジーニアスは、ミルクを注ぐまま声を上げた
「・・・・って、わーーー! わーーー! ボク何聞いてるんだろ! 今のは無し! 答えなくていいよプレセアァ!」
と言いながら、(それほど痛がって無かったかも)と後で思い出した。
確かに痛いとは言っていたが、涙も流さず、口だけで痛いといっていたに過ぎない。
ひょっとして輪ゴムパッチンよりも痛くないのかも? と考えると、プレセアが口を開いた。
「ジーニアス…」
「ななななにプレセア!?」
と言いながら、自分の服が濡れていることに気付いた。テーブルに密着していた部分だけ。
「ミルク、出しすぎです」
「あ・・」
言われて初めて、ジーニアスはコップから溢れるミルクを拭く布巾を出した。
ジーニアスが拭くのをただ見てる訳にも行かない、プレセアは同じく布巾を取り出し、
水につけて強く絞って水分を取ると、彼の近くによってミルクを拭き取った。
そのとき、ジーニアスの耳元で囁くように言った
「今でも痛いです。」
その一言で、ジーニアスは石化したように固まり、慌てを全面に出していた顔も引き攣った。
「どうかしましたか?」
プレセアの問いに答えることも出来ず、ただただ引き攣った顔で謝るだけだった。

パジャマから普段着へと着替えも済ませ、身支度を整えた。
朝と呼べた時刻はやがて昼へと移り変わる。
太陽はさんさんと輝きを増して高く登り、鳥の囀りは影を潜め、入れ替わるように人々の活気に満ちた声が鳴り響く。
未だ旅の途中ながら、平和な世を漫遊していると、あの戦いの日々が遠い昔のようだ。
プレセアは時々考える。
もしあの時ロイドやジーニアスと会っていなかったら、自分はどうなっていたのか、と。
少なくとも感情を取り戻すことはなく、クルシス無い今は、ただの被害者Aとして終わっていて、こういう風には過ごせなかったかもしれない。

二人はアルタミラのホテルから出ると、海岸で遊んでいた仲間と合流した。
その際、ロイドがジーニアスのやけに疲れた顔に気付いた。
ツンツン髪についた水滴を払うと、
「ジーニアス、具合でも悪いのか? 眼の下に隈が出来てるぞ?」
と鋭い質問をしてきた。ジーニアスは「ほっといてよ…」と一言言うと、浮き輪を持って海へ走っていった。
「何だあいつ? 夜なべで勉強していたのかな?」
まさかセックスで悩んでいたとか、そんなことは一切考えないロイド。当の本人が放っておいてといっても、そうは出来ないのが彼の性分。
昨夜ジーニアスと同じ部屋に泊まったプレセアを見つけると、浮き輪を膨らましている最中に聞いた。
「私と同じような時間に眠ったと思います。でも、いつもよりもやや遅い時間でしたので、その分睡眠時間が足りなかったのかもしれません。
でも、朝はきちんと御飯を食べていました」
事情を亭々と述べる。ロイドは「じゃあただの寝不足か」と納得した(実際、ただの寝不足)。
後ろから、彼のことをコレットが呼ぶ声が聞こえると、厄介物が落ちたような気分でそれに応えた。

昨晩、部屋割りは財布持ちのゼロスが決めた。
「俺さまとしいな、お前とコレットちゃん、ガキんちょとプレセアちゃん、
まあこれでいいだろ?」
と、独善的にも程が有るほど適当に決めた。
とはいえ、組になった者達も片方にそれぞれ恋心を持っていたし、
八方美男子をしていたロイドも、やはりコレットの事となると一際熱心になるのは否めない。
結局、ジーニアスとプレセアだけではなく、ロイドとコレット、ゼロスとしいなという二人も仲むつまじく同じ部屋で泊まっていた。
思いあう若い男女が一つ屋根の下で一夜を共に―――何があったものやら。推して考えるまでもなく、彼らは昨日お互いを愛し、幸せな夜を過ごしていた。
ボールを投げ合って遊ぶコレットとしいなの表情がいつもよりも輝いて見えたし、ゼロスもどこかご機嫌で口数がいつもより多い。
彼女らが浮ついた気分でいることは、人間観察を生業としているわけでもないプレセアでも分かる。
今頃リフィルはいつも通り歴史モードになっているのだろうか? そうなるとジーニアスと自分だけだ、いつもと変わらないのは。
知識では、セックス後には満足を得られる、と聞いていた。
しかし、自分の初体験では、満足なことを得られなかったことに、プレセアはパズルのピースが揃っていないような不満を持った。
彼女達の表情は、自分のそれとは違う。身分が違うように羨ましげな目で、御仁方々を見た。
時計の針は少しずつ動いていった。やがて、長針が正午より12の針を5度差し、昼から夕方へと呼び名が変わりつつあった。
観光名所では、常に人の動きは絶えない。ロイドたちも手足がダルさを覚えるまで泳いだ。ジーニアスがバテ、コレットがバテ。
遊び疲れでも疲労は疲労。勝手に時間を決めて休むことにした。

「コレットさん、しいなさん。昨夜セックスしましたか?」
とても男性陣に聞かせられないような話題を無表情でプレセアは言う。
質問を聞かれた二人は、石化したように固まり、手に持っていたジュースのコップを地面に落とした。
「な! 何言ってっ!!
ちょっと待ってよ、アホ神子とか居ないよね!?」
しいなは首を左右に振り、男性陣がこの話を聞いていないか確かめると、ふぅと息を吐いてヒソヒソ声を出し始めた。
「ア…アタシはしたけどさ。ちょ、ちょっと待った! そういう話は外でしないでおくれよ!」
ようやく石化が治ったコレットも頷いて、一度海からホテルに戻る事になった。
海水で濡れて肌に密着した水着を脱ぎ、海水を流すためのシャワーを浴びながら男には聞かせられない話をした。
仕切りがあるのに、女性の声はそれを軽く通り抜けた。
「それでさ、ゼロスの奴ったら普段はちゃらちゃらなのに、二人っきりになると急に男前になるんだよ。
全く調子がいいっていうか、要領がいいっていうか。」
「しいなさんは、昨夜が初めてでしたか?」
シャワーの音に紛れても、プレセアの声はしっかりとしいなに届いていた。
「それは内緒にしとくれよ! アタシにだって、同性にも話したくない秘密とかあるんだからさ。
ただね、いつだったか言わないけど初めてのときはそりゃ緊張したよ。
ミズホの里ではそう簡単に貞操を捨てるような事をしたら駄目だからね。
本来は婚姻とか必要なみたいだけど、あいつはあれでも神子だから」
と言ったとき、仕切りとなっている板を突き破り、コレットがしいなの所に入ってきた。
コレットの足元には、泡を出した石鹸があった。多分、踏んずけて転んだのだろう。
何で転んだだけで板を突き破るほどの力があるのかは分からないが。
もろに床のタイルに頭をぶつけたコレットは、その部分を泡のついた手で擦りながら、恥ずかしそうに聞いた。
「えと、しいなはゼロスと初めてをしたの?」
聞いているコレットは耳まで赤く染めている。ただしいなも同じくらい赤く染めた顔を隠し、
「そ、それは秘密にさせとくれよ!」
と答えた。コレットは右手で秘所を隠し、左手でキスマークがある右胸を隠した。
納得したようにうんうんと頷く。
「うーんそうだよね。私もあんまりそういうのは答えたくないかも。」
「私は昨日初めてでした。」
プレセアが自発的に喋った。
コレットとしいなは目をあわせて固まった。
何よりも驚いたことは、プレセアが昨日セックスをしたこと自体に驚いた。
ジーニアスは誘ったのか、それとも据え膳を頂いたのか、それすら質問できないほど驚くと、言葉を失った。

「聞いた情報では、セックスは男の人にも女の人にも、とても気持ちのいいことだと言われていました。
しかし、私は昨日痛みばかりを感じてしまい、全然気持ちよくありませんでした。お二人は昨日気持ちよかったですか?」
かなり直な質問。どう答えるか悩むところだが、せっかく三人の美少女が三人ともセックスの体験ありと言うことで、包み隠さず答えた。
「え、えーと・・・うん。私はあまり分からないからロイドにまかせっきりだけど、頭の中がぽわ〜んとする感じかな」
おっそろしく抽象的な例え。当然プレセアには全然伝わらない。
ただ、それで分かったのかしいなは頷いた。
「恥ずかしいけど、確かにね。一回だけじゃ足りないってのも少しは思うよ。
アタシもけっこうゼロスに任せてるのが多いかな。協力したいとは思うんだけどね」
「協力・・・・? 協力とは、女性の方も男性にしてあげられることがあるのですか?」
しいなが何気なく言った「協力したい」に、プレセアは予想以上に食いついた。
聞かれてもしいなはそれほど詳しいわけではないし、コレットは持っての外。
顔を見合わせた三人は、口を噤んだままタオルを巻いてシャワー室から出て行った。

それぞれの服を着ると、火照る身体に濡れタオルをあてながら話は続けた。
「どうやったら気持ちよくなれるのでしょうか?
皆さんのように年を重ねればいいのですか?」
相変わらず、答えにくい質問を率直に重ねるプレセア。二人はシャワーを浴びたばかりなのに汗を垂らした。
「どうやったらって言っても・・ロイドに全部任せてたから」
コレットは口元にバスタオルを伏せ、言い難そうに言う。
実際に彼女は何もしていない。しいて言えば、無意識のうちに腰を動かし、ロイドの肉棒を閉じ込めるような快感を与えたことぐらいだ。
彼女もつい最近まで処女だった。ロイドもアレだから、知識らしい知識と言えば、セックスすると子供ができることと、オタマジャクシ+卵=子供、ぐらい。
番外編として、コーラで洗えば妊娠しないことぐらいだ(それは迷信)。
まかせっきりのコレットでは有意義な情報を得られないと判断したのか、プレセアの視線はしいなへと動いた。
その視線にぎくりとしたしいな、だが彼女もそれほど詳しいわけが無い。
「う〜〜〜〜〜〜ん・・・アタシが知ってる女でもしてあげれることって言えばね…
やっぱり気持ちいいところをいうことかな」
「ええとその、声を出すこと なのですか?」
興味ありげに聞き返す。コレットも、頬を赤く染めて耳を塞いだ。でも、少し声が漏れるぐらいに隙間があった。
二人に羨望の眼差しを向けられて、しいなも(言わなきゃよかったよ)と心の中で思った。でもしっかりと答える。
「やっぱりさ、ゼロスに限ってかもしれないけど、自分の手で相手の女が気持ちよくなっているのは嬉しいものらしいよ。
それがまあ、協力するって意味だけど・・・女も恥ずかしがらずに声を出すと、やっぱり気持ちいいし。
女が協力できることは他にもあるけど、あたしには言えないよ!」
「そっか〜♪ またロイドをHするときは、恥ずかしがっちゃダメなんだね」
コレットはにっこり笑って答えた。その微笑みは、ロイドにとっても嬉しいことを覚えた、ということもあった。
もう一方の本命のプレセア、彼女はコレットのように喜んではいなかった。
「私…気持ちよくなかったんですけど、それでも嘘の声を出した方がいいのでしょうか?」
こんなことを言っているが、彼女は不感症というわけではない。
初体験でジーニアスがビビッてしまい、プレセアが痛みしか感じないうちに行為をやめてしまったため、結果的に気持ちいいと思えなかっただけ。
しかし、プレセア本人はそれを自分の体質の性だと思い込んでいた。
感情の乏しさから、自分の神経もどこか衰弱しているのかと疑ってしまうのは、真面目な人の性というものだった。
「私も気持ちいいと感じたいです。」
プレセアは、その小さな胸にある切ない思いをぶつけた。

「一回も感じれない、か。」
胸は大きいが、実は繊細なしいなもプレセアのことは何とかしてあげたいと思った。
腕を組んで考えると、はっと思い出した
「そういえば、ミズホの里に伝わる媚薬があったねぇ。
試しに使ってみるかい? アタシは使ったこと無いからよくわかんないけど、とりあえず持っているからさ」
「媚薬ですか・・・」
「媚薬って何? よくわからないけど、気持ちよくなれるかもしれないなら試してみようよ♪」
コレットがプレセアの背中を後ろからトンと押した。
媚薬を使って気持ちよくなれなかったら、ドーピングを受けたのにちっとも強くなれないようなものだ。
いわばもうその方面諦めなさい宣告をされるようなもの。
プレセアは少し悩んだが、しいなのご意向にそぐい、粉状のものを水に溶かして飲むタイプのものを貰った。
使い方と効能と分量について、しいなが知っている限りの情報を一頻り時間をかけて聞くと、次の性交時に備えた。
このとき、しいなは決定的なミスを二つ犯した。
一つは使ったことが無かったため、どれほど効くのか分からないということ。
もう一つは液体に溶かす分量を、自分の体を目安に教えたこと。しいなの身体の大きさなら適量でも、プレセアの身体では過度だろう。
勿論それに気付かず、プレセアはありがたく受け取った。ようやく股間の痛みもひいて、今日こそ! と胸に誓った。


一方、ジ−ニアスの方もただ遊びつかれて眠っていただけではない。
昨日のプレセアとの初体験に満足は全くしていないのは彼も同じだ。
しかし、彼にとっての一番の欲は、プレセアに人間らしい感情を取り戻して欲しいこと。
そのためのアイデアをロイドとゼロスに聞いていた。
ロイドはただジーニアスが既に初体験を終えていたことに驚きと感心を持つだけだったが、
ゼロスのほうは面白がっただけではなく、それなりにアドバイスをした。
「無表情のままヤっても、確かに面白くはねーよな〜
まあ逆に感じすぎて何を言ってんのかわかんねーのもどうか、って感じだけどよ
プレセアちゃんだって、今はエクスフィアが制御できてんだから、何度かHなことをしていれば感じてくれるんじゃねーの?
しいなもあんな風にツンツンしてっけど、二人っきりになるとそりゃもう凄えの何のって!」
「ゼロスの100分の1でいいから、プレセアも喜怒哀楽を見せて欲しいよ」
ハァとため息をつきながら、ジーニアスはオレンジジュースに差してあるストローを吸った。
味が濃い部分と薄い部分をかき混ぜつつ、ジーニアスはゼロスにもう一度聞いた
「ゼロス〜、なにかボクでも出来るようなプレセアが喜ぶこと無いかな?
前に砥石をプレゼントしたのに喜んではくれたけど、何か口だけの感じがしたしさ」
それは喜ぶプレゼントだったのかと疑いたくなるが、ジーニアス本人は真剣。
彼女が今のところ自分に向かって微笑んでくれたことは記憶にない。いや、この天才児の記憶にないならその事実は無いのだろう。

「昨日も全然上手く行かなかったし、本当にボクなんかが相手で良かったのかな・・・
もう駄目だよ今週のボク、生まれ変わったらナマコになりたい・・・」
と、自信無さにも程があるほどネガティブで落ち込んだ表情でいた。
「元気出せよジーニアス! プレセアだってお前のこと好きだから初めての相手にしてくれたんだろ!?」
ロイドは歯に衣着せずに意見を述べた。
この男を紹介するとき、性的なことに関する疎さは特筆すべき点だが、発言の一つ一つは実に痒いところに手が届く点もまた特筆すべき点だろう。
確かに熱血で高感度高いロイドとも、テセアラ屈指のナンパ男のゼロスとも、プレセアは肉体関係を持たないのに自分にだけは身体を許してくれた、
たったその一つの事実で、ジーニアスは随分元気を取り戻した。
「そうか・・・そうだよね! よーし、そうなったら男のボクが頑張らなくちゃ!」
「おめでてーガキ」
ゼロスはせっかく立ち直ったジーニアスに辛辣な一言。聞こえないぐらい小声だが。パンが4枚挟まれたビッグサイズのハンバーガーにがぶり付くと、
「それじゃあ聞くが、お前は何ができんだ?」
と、行儀悪く口の中で物を噛みながら聞いた。
ジーニアスは再び腕組して悩み始めた。そんな彼に、ゼロスは再びため息。
「お前の思うとおりにやったら、プレセアちゃんは全然満足しなかったんだろ?
それなら逆転の発想、ちょっとはオメーらしくないことでもしてみたらどうなんだ?
逆に気持ちいいって喘いでくれるかもしれねーぜ?」
「ボ、ボクらしくないことって言っても・・・」
最近の自分がつかめないジーニアスは、どんどん塞ぎ込んでいった。
ロイドはトマトを取り除くと、バーガーにかぶり付いた。
「正しいと思うなら自分らしくなくてもやった方がいいぞ!
でも無理はするなよ。ハメを外すとロクなことは無いからな」
ゼロスと同じく口の中で物をくっちゃくっちゃ噛みながら言った。
喋っている状況は殴りたいほど腹立つが、本当にロイドの一言は痒いところに手が届く。
一番の親友ロイドの言葉である。とりあえず、今日の夜だけでいいから自分らしくない行動をとろう。
ジーニアスにそう思わせるには十分だった。
何か決心めいた雰囲気になったジーニアスを見て、ゼロスもまた表情を変えた。
「お、何か頑張りそうだな。
せっかくだから、俺様じきじきにこーゆーの何かいんじゃねーの? って思うのをアドバイスしてやるよ
緊張で忘れてもいいように、紙に書いておくぜ
1、相手を安心させること。2、奇襲を仕掛けること。3、乱暴にしないこと。4、相手の意向に…………」
「安心させて奇襲って、いきなり犯罪だね…」
「でひゃひゃひゃ、いいじゃないのそんなことは!」
といって、ペンを手に取るとテーブルクロスに勝手に書き始めた。
「あと、これとこれとこれを食っとけ!」
といって、ゼロスは自分の分も含めて精がつきそうなイメージの料理を再度注文した。
言うまでもないが、今日の部屋は前日と同じ組み合わせ。
ゼロスはやる気満々のようだ。料理が来る前から涎を垂らしているが、果たしてそれは料理のことを考えているのか、それとも夜のことを?
そんな彼を見て、呆れ顔を含めながらジーニアスは決意した。
(よし、今度こそプレセアとしっかりとHをするんだ!)
隣でロイドがジーニアスの背をポンと叩いた、まるで後押しするように。

その夜

一日の終わりへと、時間は刻々と過ぎた。
だが、一日が終わっても、必ずしも全てのものが終わるわけではない。
外は完全な闇となり、僅かな明かりすら金を払って欲しくなるような不安に包まれる。
そんな時刻になってようやく、大人の時間は始まろうとしていた。
さすが楽園の高級ホテルだけあって、防音完璧では雄語句の一つも通さぬ。今頃は隣で情熱を交えているであろうカップルの声は聞こえない。
反対から言えば、隣の部屋もこちらは何をしているのか分からないだろう。

コップ一杯の水を飲み、ふぅと息を吐いて落ち着くとプレセアは口を開いた。
「あの…ジーニアス」
彼女にしては珍しく緊張した雰囲気だった。
不意を突かれたジーニアスは「なななな何?」と、ど真ん中の失投が来たように慌てふためいて答えた。
ジーニアスは悶々とした気分でゼロスのメモ書きを見ていた最中だから余計に驚き、心臓の鼓動の速度は繋がっているように速い。
見られたらまずいと思いテーブルクロスを急にしまうジーニアス、その態度に少し驚きを覚えたが、プレセアは席を立つと、
「私シャワーを浴びてきます。」
と言って、バスルームに向かうプレセアを、ジーニアスは目で追った。
いつもなら着替えを多く持っていくのに、彼女が持っていったのは歯ブラシと歯磨き粉、そして体全部を覆うようなサイズのバスタオル一枚だった。
(もしかして・・・)
プレセアも? と思ったとき、後ろを振り向いた彼女と目があった。
それが意味することは、プレセアはジーニアスの方を見たということで、目が合うと二人とも急に目を逸らした。
後は無言でシャワー室へと向かっていく。バタンというドアが閉まる音が聞こえると、ハァ〜と大きく息を吐いた。
と同時に、何もしていないのに疲れが出てきた。
目を下に降ろすと、ゼロスの書いたメモ書きがある。その内容はどれもこれもそれほど難しいことではないが、
やはりジーニアスにはそう簡単に出来るものではない。
「やっぱり無理だよぉ」
嘆くジーニアス。緊張の余り目から涙が出てくるほど。
プレセアがシャワー室から出てくるまでどれぐらいだろうか? 今のジーニアスには5分ぐらいでも丸一日待たされたぐらいに感じるだろうが、
なるべく遅くしてくれとただただ祈るばかりだ。
出てきたら―――その時はジーニアスも覚悟も決めるが、正直注射の千倍怖い。
昨日が初体験だったが、ただ挿入しただけで終わり。
その間は緊張と言うよりもパニックになっていたので、純粋に緊張という意味では今回ほどのことは無いだろう。
  ぶるるっ!
「うぅ〜〜っ」
ジーニアスは一度大きく身体を震わせた。
それは緊張で震えているのではなく、単純にトイレに行きたくてぶるっとしただけだった。
人間緊張が昂ぶると尿意をもよおすものだ。汗を垂らして気持ち悪いし、頭がよく働かない。
心音の速度と頭の混乱、更に生理現象が妙にドッキングしていて、ゾンビのような生命感を感じさせない動きでトイレへと向かった。

「はぁー」
出すものを出したことにより、シバリング、安堵感を得たついでに頭も少し冷えた。

ここで一つ豆知識。
日本の風呂場と、ホテルのバスルームとは似ているようで厳密には違う。
風呂場はただ風呂だけがあればそれでよく、近くに洗面所などなくても成り立つ。
一方のバスルームは風呂場だけではなく、洗面台とカーテン、それにトイレを完備していることで初めてバスルームという。
当然アルタミラの高級ホテルでとっているのは、風呂場でなくバスルーム。
従って、シャワー室の隣にトイレがあるのは当然である。
豆知識おしまい。

ジーニアスがトイレで済ませた後、当然その事に気付いた。
隣には、カーテン越しにプレセアが身体を洗うシルエットが見える。シャワーの音が凄いからだろうか? 本人はジーニアスには気付いていない。
(ええええ!!!!!)
冷えた頭が一瞬でごちゃごちゃになった。
ベッドに腰掛けてメモを読んでいたはずなのに、いつの間にか隣にはシャワーを浴びているプレセア? この状況を理解することなど不可能。
困ったジーニアスは、とりあえず洗面台に顔を突っ込んで、勢いよく水を出した。
水色の髪の毛全てに水が行き届くまで待つと、頭も冷えて少し冷静になれた。
(2、3,5、7、11……)
頭が冷静になると、何を思ったか急に素数を数え始めた。1999まで数えたところで、さすがに頭が疲れた。でも落ち着いた。
次に、ゼロスのメモ書きを思い出してみた。その中には「奇襲を仕掛けるべし」と書いていた(気がする)。
ついでに、プレセアに驚きを与えて、少しでも感情を彼女に取り戻させようとしていたことも思い出した。
プレセアには既にHする気はあるだろうし、いきなりキスしても驚きこそすれど、嫌には思いにくいだろう。
更にこの状況をプレセアは考えていないだろう、ジーニアスからのいきなりのキスとなればプレセアもびっくりすると思われる。
「ひょっとしてチャンスかな?
・・・・・ああもう!! ここまで来たら、もうやるしかない!!」
頭は冷えたが依然慌てたままだろう、衣服を着たままで意を決すると、ジーニアスは目を瞑ったままプレセアとの距離を隔てるカーテンを引いた!
そこには髪をとき、ストレートの髪型となっているプレセアがいた。
シャンプーを終えた後だろうか、いい匂いがしてジーニアスを素直に雄のように誘惑した。
突然カーテンが挽いたことに、プレセアは相変わらず無表情だが、それは呆気にとられて何が何だか分からないからだった。

「ププ・・・プレセア! 目つぶって!」
「あ・・・はい、わかりま」
プレセアも返事に時間がかかった。
やっぱり緊張して、考えが浅くなったジーニアスは、彼女が返事の途中で、まだ目を瞑っていないのに自分の唇を押し付けた。
「・・・・!?」
再度突然。あのジーニアスがいきなり自分にキスしているという状況に、プレセアは驚き以外の感情を抱けなかった。
いつもとは違って情熱的というか、勢いに乗っているジーニアスに驚き、そのジーニアスにキスされているということに驚き。
さらには彼が衣服をつけたままいきなり現れたということにも驚き。
ついでに言うと、キスがとても長いことにも驚き。
ジーニアスが混乱したままで次のプランを考えていないので、とにかくキスをしていたためだ。
したがって、ただのキス以外の何でもなく、プレセアには物足りない思いがする。
(じれったい…です)
そう思うと、彼女の方から舌を入れた。
「んぅっ!」
ジーニアスの唇をそっとなぞっただけだが、彼は電気が流れたように大きく身体を震わせた。
なおもプレセアは舌を動かし、ジーニアスもパニくりながら合意するように自分の舌を入れた。
最初は唇を舐めあったり、舌同士を触れさせるに留まっていたが、
次第にエスカレートしていき、二人は強く抱き合い、シャワーが二人に同じく水を恵む中、お互いの口の中に挿入させてかき回した。
甘美な音と共に快感がめぐり続け、二人の唇の端から共有していた唾液が零れ落ちる。
それもすぐに洗い流されるが、ポタポタと情熱の汗のように滴り続けた。
やがて口を離すと、二人の間には透明な唾液の橋があった。
「ハァ・・ハァ・・ハァ・・・・」
ジーニアスの呼吸は特に荒く、いかに彼が緊張しているのかが分かる。
「はぁ、はぁ・・けほ!
ジーニアス、少し待っていてください」
二人の混ざり合った唾液を大量に飲んでしまった。
そのこと自体は別に構わない、唾液の交換など触れるだけのキスでもしているのだから、それの延長上。
しかし、あまりに大量だとさすがに咽てしまった。
相変わらず出続けているシャワーのお湯を手で掬い、嗽をした。
プレセアは口を拭うと、出ずっぱりになっていたシャワーの栓を閉めた。
従順よくシャワーは止み、この密閉された場所で動くのは二人だけとなった。
シャワーが止むと、プレセアは髪についた水滴を払うと、緊張のあまりまともに自分を見れないジーニアスに向けて、
「ジーニアス、もう一度キスしましょう
とても気持ちよかったです。私…もっとああいうのを体験したいです。気持ちよくなりたいです。
気持ちが飛ぶのは怖いけど、ジーニアスとなら・・・」
そこまではっきり言われると、ジーニアスもどんな緊張していようがもう後には引けなかった。
手をプレセアの頬にかけた。箸も掴めないほど震えているが、それでも手はプレセアから離れることはなかった。
先に彼女の唇に舌をあててから、再度彼女の唇にキスをした。
先ほどは、ジーニアスが受け手のようにプレセアに合わせていたが、今は彼の方から積極的に仕掛けた。
よりじっくりと時間をかけて、隅々まで。プレセアは実に気持ち良さそうにそれに反応して、時々曇りつつも声をあげた。

「ハァ…ハァ…ハァ…」
「はぁ、はぁ・・」
今度はプレセアの息の方が荒い。というか、ジーニアスは舌をかき回すのに精一杯で、とても気持ちいいと考える暇などなく、
穴の開いた風船に息を吹き込んだように、快感は彼を通り過ぎていった。
それでも残り香のようにある、僅かな残留分でも息が乱れていた。
「ジーニ・・アス、キスするのは気持ちいいです。」
「ボ、ボボボクも・・・」
一回目とはやや違う反応をした。先ほどはただ感想を述べただけに近かったが、
今度は本当に気持ちよくて気持ちよくて堪らないようだ。
「ジーニアス、服を脱いでください。
私、今以上に気持ちよくなりたいです。何ででしょうか? 止まりません。」
「う、うん・・・」
意外にも、早くも乱れ始めたプレセアに、ジーニアスは少し驚きながらもすぐに衣服を脱ごうとした。
しかし、シャワーを浴びて濡れていないところが一切ない状態になっていたため、
肌にべったりついて、ゴムのように脱ぎにくくなっていた。
精一杯力を込めて脱ごうとするが、ジーニアスは非力なので力作業は向いていない。
そうこうしている間に、プレセアの欲求は見る見るうちに強まって行き、
彼女自身無意識のままジーニアスの服に手を伸ばし、一気に脱がした。
ちょっと破けたかもしれないぐらいの勢いで脱がされた。
上下ともに0,5秒ほどで脱がされ、ジーニアスは一瞬で赤面して口を波ダッシュ形にしたが、
プレセアはジーニアスの身体に寄りかかり、自分よりも小さな胸の中を本当に居心地良さそうにしていた。
自分の胸にもたれているプレセアの顔を冷静に見直すと、自分よりも赤く染まっていた。
何も感じることなく終わった昨日とはえらい違いだ。
(この横顔に一目惚れしたんだったなぁー)
と、彼女の髪の毛を撫でて、ゆっくりと手を下へ動かし、そっと頬に添えた。
 ガブ。
「痛っ!」
指をかまれた。前歯で軽く噛んだだけだが、突然のことでジーニアスは驚き、プレセアから手を引っ込めた。
「ご、ごめんプレセア!」
何が悪いのか皆目見当が付かない。あえて言うなら服脱ぐのが遅かったことか?
しかしプレセアはジーニアスの謝罪には何ら興味を示さず、再び彼に抱きついた。
抱きつくのとほぼ同時に、ジーニアスの首筋にキスをした。
「ひゃう!」
どっちが女か分からないような声を出した。
(キスって口同士でするもんじゃないの!?)という疑問を抱いてもそれどころではない。頭は混乱の二文字。
口を離すと、プレセアはジーニアスを強い力で抱き締めた。身体はその分密着し、肌のふれあいは強いが、強すぎて痛みを感じる。

どうもプレセアの様子がおかしい。それでもジーニアスは嬉しかった。
自分が理由になってプレセアが感じてくれているということが、何よりも嬉しい。
(プ、プレセア!)
(……ジーニアス)
二人の手が、まるで糸で繋がっているように同時に下へと動いていた。
ジーニアスの手はプレセアの幼い胸部へ、プレセアの手はジーニアスの陰部へ。
動いたのが同時なら、それぞれの性感帯に手が届くのも同時。
「うわっ!」
「きゃ!」
お互いの悲鳴が近距離で聞こえた。
反射的に振り向き、当然のように二人とも顔を見合わせた。また目が合い、二人とも手が添えられたまま動きが止まった。
「あの、ジーニアスの好きなとおりにしてください。」
「え!?」
一瞬ギョッと目を大きく開け、驚きを表した。ただ、変に考えることなく、言われたとおりに頷いた。
とはいえ、どうしたものか。自分に出来ることはよく分からない。
「すいません、抱きついたままだと、動きにくいですね。」
プレセアはジーニアスの身体から離れて、体育座りで浴槽の端まで動いた。
ごくり、喉を鳴らしてジーニアスはハイハイでプレセアに近づいた。
「あっ!」
震えの抜けない手で、再度プレセアの胸へと手を添えた。
小さな声を漏らし、俯いていたプレセアは天井を見るように顔をあげ反応した。
「プレセア、大丈夫?」
「平気…です。それよりも、あまり間をあけないでください。」
「じゃ、じゃあ!」
と言われても、そうすぐには頭の切り替えができない。
三秒間かけて深呼吸、その後でようやくプレセアに触れている手に神経が通った。
お世辞でも大きいとはいえない。これで大きいなら、コレットなんか爆乳で、しいな何かもはや人間ではない。
その大きさだが、きちんと柔らかさは感じ取れた。もっとも、それはジーニアスが他の女性の胸に触れたことが無いためだが。
「プ・・・プレセアのおっぱいは・・や・・・ややや柔らかいよ!」
「あ、ありがとう…」
プレセアが嬉しそうに小さく笑った、その直後固く目を瞑った!
「んっ!」
ジーニアスの手の平が、プレセアの胸の小さな突起に触れていた。
その快感はキスで得た快感の総量より上かもしれないほど。プレセアは胸が火照るのを感じ、更に下半身の部分が熱くなるのを自覚した。
プレセアの反応を見て、ジーニアスが今度は両手を使い、彼女の胸を攻めた。
触るには小さいものであるが、それでも女の子の乳首に触っているというだけで嬉しくなり、
勝手が分からないがとにかく触っていた。
ジーニアスが乳首を重点的に攻めると、それはすぐに勃起して固くなっていく。
「ふ、んく」
それに乗じてプレセアの股間も熱くなり、本人も気付かないが少しずつ濡れ始めていた。
(こーゆーのって、舐めれば気持ちいいんだよね・・・)
大きくなった乳首をじーっと見て、心の中で呟いた。
しかし、一瞬躊躇した。プレセアの様子がおかしかった。痙攣するように小さく震え、呼吸も毒に犯されているように荒い。
顔は自分の知っているプレセアの顔ではなく、本当に気持ち良さそうだった。

だが、これ以上気持ちいとされていることをしたら、彼女は大丈夫なのか? と思っていた。
「ごめんプレセア!」
思っていたが、既に歯止めは効かない。
気付いたら母の乳房に吸い付くのとは別の強さで、口に含んで弱く舐めていた。
「きゃああ!」
貫通するような声をあげ、既に官能の渦に落ちているプレセアは大きく跳ねた。
でも、ジーニアスは構わず先端部分に舌を這わせ、もう片方の乳首も指で挟んだ。
「あん!! ひゃぅ! んくぅ! ジー…ニアスぅ!」
両の乳首を別々の刺激が覆う―――プレセアの口から声は止まらなかった。
プレセアもこんなのは初めて。声が自分の考えよりも先に出て、逆に自分の意志では何もいえない。
甘い心地よさではなく、身体がしびれるような快感が、今の彼女のほとんどを支配していた。
そして、下腹部にあるもう一つの快感の巣に異物を感じた時、プレセアには嫌悪といったものは一切感じられず、
ぐっしょり濡れそぼっていたという事実に恥ずかしさを感じることもない。
ただただ、快感だけを得ていた。
ジーニアスの指は、いつの間にかプレセアの秘所に侵入していた。
最初はただ入れるだけであり、動くことすらなかった。触っていることに満足、しかしそれは一瞬のことだった。
入れられた指は、それ自体が生き物のように動き始めた。
「ああっ! うわぁあん!! はぐ、ジーニ……ぁぁんっ!!」
胸をなめっていたときとは明らかに違うタイプの喘ぎ声、鳴き声の入ったような声。
「ここがやっぱり気持ちいいんだ!! もっと激しく行ってみる!」
「ひゃ・・・あああーーーーーーーー!!!!」
指を二本に増やし、膣内を動き回らせた! もはやそれだけでプレセアの秘所は処女でも痛くないほど濡れている。
ジーニアスもそのプレセアの変わりぶりには気付いていたものの、舌と指の動きは止まることなく、
彼女に更なる快楽を与え続け、快感の声を漏らさせていた。
「はぅん、ううっ! んっ くぅんっっ!!」
実年齢相応の艶やかな嬌声には、言ったプレセア自身も照れてしまう。
頭は何も考えられない、ただただジーニアスから与えられた快感を声に出すための媒介のように、
快感という名の反射神経に、プレセアはこの瞬間完全に乗っ取られた。他の一切は全ていらぬことと、命令が下されていた。
ある意味ではジーニアスがプレセアを支配していると言える。
ジーニアスが指を動かし、関節に力を入れ、乳首や膣に与える刺激を少し強くするだけで、プレセアの反応は気が狂ったように凄い。
しかし、その支配はそう長くは続かなかった。ジーニアスは、プレセアの快感の声を聞き続けていて、もう我慢できなくなった。
一度しか挿入したことがなく、しかも中途半端に終わったということがあり、彼の一物は放っておいても射精しそうなぐらいに膨らんでいた。
「プレセア…ボク・・・ボク・・・」
乳首から口と手を離し、愛撫がやんだ。並ぶものなど無い甘美な喘ぎ声がようやく止んだ。
ジーニアスは自分の一物を握って、眼下で痙攣しているプレセアを見た。
「ボク…もう我慢できない!」

本当に我慢できなかった。もしプレセアがここで拒んでも、無理に入れてしまうかもしれない、それほど今のジーニアスは雄に近かった。
そして、プレセアももう限界。プレセアも今以上の快感を欲していた。身体が溶けてしまうような快感を。
でも返事が出来ない。ジーニアスの愛撫が気持ちよすぎて、声が上手く出ない状態になっていた。
返事として頷くことも出来ない。首に力が入らず、俯いたまま動かなかった。
厚い硬貨を曲げる握力も、今では豆腐すら砕けないほど弱々しいものとなっていた。
(来て・・・)
何も言えないが、せめて心の中で思った。

ジーニアスの一物がプレセアの中に入った!
ピリッとした痛みが走った―――しかし、それは痛みではなく、挿入で沸いた性感の波だった。
まだ膣内にものを受け入れる事に慣れないプレセアは、入れられた瞬間にくるものは痛みだと思っていた。
目隠しして熱いお茶を飲んだあとに氷水に触れると、身体はそれを熱いものだと勘違いするのと同じ現象が起きた。
真逆に位置する二つの感覚がプレセアの頭の中に押し込まれた。
(痛い! 痛い!!…いたい? 違う、これは・・・気持ちいい?)
間違いに気付くにはコンマ一秒で足りた。
一度分かると、それは津波のようにプレセアの髪の毛からつま先まで隅々に走った!

ジーニアスはと言うと、プレセアの中に入れると、動かずにじっと感慨にふけていた。
好きな子と一緒になるということは、既に体験したことなのに、嬉しさは前日の比ではない。
一体、昨日と違う点はどこだろうか?
昨日は事前にキスもしたし、体もそれほど深くではないが触った。
それに、初体験という時に非常にそそる「優しくしてください」という言葉も貰えた。
お互いにぎこちなさが目立ち、いかにも初体験というものだが、今夜はそれをはるかに上回る満足感。
どうしてか分からなくなっていたら、プレセアが下から手を伸ばし、ジーニアスの髪の毛を撫でた。
昨日は見せてくれなかった恍惚な表情をして・・・
(そっか・・・昨日はプレセアがずっと無表情だったから、ボクの方もあまり・・・)
納得すると、髪を撫でてくれるプレセアに、ジーニアスも手を伸ばした。
いつも束ねているからよく分からなかったが、けっこう長い。顔にかかるような範囲だけを優しく撫でる。
くすぐったそうに、プレセアは笑いながら顔を背けた。
今宵のプレセアは前日の無表情を一度たりともしていない。だからジーニアスも自然と手が進んだ。
顔を背けて、ジーニアスに頬を向けると、そこに唇を添えた。
少し強く吸い付くと、唇の形に赤い痕になって残った。
「あ・・」
プレセアはつけられたキスマークに手を伸ばして隠した。特に利益は無いだろうが、恥ずかしさからだろう。

挿入だけの快感には慣れたのか、いつの間にか身体は気持ちよさで一杯なのに、頭は冷静になっていた。
「ジーニアス、キスマークはつけないでください。
明日、人前に出られません」
「ごごごごごめんねプレセア!!」
ここでゼロスだったら「明日はずっと一緒の部屋でこうやっていようぜ…」と言うだろうが、ジーニアスはやっぱり頭を垂れて謝った。
既についてしまったものはしょうがない。キスマークは内出血なので、血行がよければ2日もあれば消える(体質によるが)。
後で、治るまでの間は湿布でもはって誤魔化すことにするのだが。
「プレセア・・・もっとごめんねって言わないといけないことがあるんだ」
泣きそうな犬のような顔をして、ジーニアスは言った。
「何でしょうか?」
「もうボク…出そう・・・なんだ・・・!」
「『出そう』とは、何がですか?」
何が? と聞かれても、まさか猫型ロボットが出てくるとは思えない。答えなど一つしかない。
「もう・・・我慢でき・・・なく・・・・・て!!」
と言うと、ジーニアスは腰を強く押し付けた! それにより、プレセアの奥へと一物を押し込み、二人に痺れるような気持ちよさが走った!
「きゃあ!!」
仰け反って悲鳴をあげるプレセア、ジーニアスは彼女の顔を両手で挟むと、その唇に自分の唇を押し付けた!
それは、痛いのを我慢するために変に暴れまわるのと同じで、自分の射精へと至るのを、無理やり押さえつけようという行為だった。
突然のことに驚くプレセアだが、彼の背中に手を回すと、自分の方へと押さえつけた!
それにより、ますます二人の繋がっている部分は深く繋がっていった!
プレセアの膣の圧迫感が、ジーニアスの尿道から根元を満遍なく包み込んだ。
押し込んでからは何も考えられない、天才児ジーニアスらしからぬ、ただ本能のままに腰を打ちつけた!
引いては奥へ、奥へ行ったら引いて―――単純な行為を行うだけで、もう何も考えられずに本能に身を任せるに十分な快感を得た!
「はくぅ、うあ…ああぁん! すご・・・い!
すごくあたた…か・・あぁん!」
プレセアも何も考えられない、冷静だった頭は真っ白だ。
自分と同じぐらいの背丈の彼の身体をしっかりと抱き締め、その弱々しい身体と自分をしっかりと繋ぎとめて離さない。
彼女自身が離したくないと思ったから。
理由? 理由は何でもいい。ジーニアスが好きだから離さない? 快感を与えてくれるから離さない?
それともその両方を混ぜ合わせた? どんな理由を聞いても、今のプレセアは「覚えていません」と答えるに違いない。
彼女もまた、何も考えられない。快感に満たされ、それを失うことを拒む今の彼女は赤ん坊よりも思考能力が無くなっていた。
ただただ、自分に気持ちいいという感情を与えてくれたジーニアスを離さないために・・・
「う・・・う・・」
ジーニアスが腰を押し付けたまま動かなくなった。
そして最後にプレセアを力の限り抱き締めると、大きく叫んだ!
「うわ・・ああああぁぁぁーーー!!!」
その声に続くように、プレセアも同じく大きく叫ぶ、同じぐらいの声をあられもなく!
「きゃあ…あ…ああああぁぁーーーっっ!!」
同じ母音の異なる声は、やがて重なり一つの音となってバスルームにこだました。
急にバスルームは無音に静まり返り、同時に二人の動きも止まっていた。抱き締めたまま固まり、呼吸のたびに上下するだけだった。


「プレセア…もう一つご、ごめん
ボクのせ・・・せせせ精液を中に出しちゃった」
相変わらずの様子で謝るジーニアス。
疲れ果てたためか、それとも罪悪感がものすごいのか、声がとても小さい。顔をほとんど密着させなければ聞こえないほどに。
プレセアは、自分に圧し掛かっているジーニアスを退けることなく抱き締めた。
とびっきりの笑顔をジーニアスに見せて、あたふたとうろたえる彼に答えた。
「ジーニアス・・・好き。
好きだから、中に出されてもいいの。熱い・・・とても熱いけど、気持ちよくて、もっとしたい。
でも、あまり続けると妊娠するかも…」
妊娠という言葉を出すと、急にジーニアスの顔色が青くなった。
「ええ! にににににんにに妊娠ッッ!!!!
それはまずいよぉ! 姉さんに処刑されちゃう!
・・・・あれ? プレセア、言葉遣いが」
いつもの他人行儀な口調ではなく、家族と話すときみたい そう思ったとき、プレセアのほうからキスをしてきた。
たかが唇と唇が触れ合うだけだというのに、ジーニアスは時間が止まったように固まった。
少し前までもっと凄いところが繋がっていたのに。そんな合理的な慰めが出来ないほど、彼は頭も身体も疲れていた。
唇を離すと、プレセアはジーニアスから離れ、バスタオルを身体に巻いてベッドの方へと足を進めた、
「明日は筋肉痛!」と宣言されたぐらい痛む身体、無理に動かして、ジーニアスはプレセアの後を追った。
幸い洗面台に備付けのタオルがかけられており、とりあえず股間だけは隠して部屋に戻ると、
プレセアは既にパジャマに着替えて、自分のベッドで眠っていた。
余程疲れていたのか、それとも満足したのか。
布団も羽織らず。
「あ。」っと驚いたジーニアス、プレセアのベッドの上には、媚薬が置かれていた。
少し量が減っている。既に使っていたようだ。
(だからあんなに感じていたのかぁー。そうだよね、ボクなんかじゃ気持ちよくなれないよね)
納得する一方で、少し自信をなくした。
気落ちすると、猛烈な睡魔が襲ってきて倒れそうになった。
「もう無理・・・腰も痛いし、寝よう」
自分のベッドに戻ろうとした―――ときに、ふと足を止めて、プレセアのほうを向いた。
「おおおおお・・お休み!」
と言うと、彼女の頬にキスをした。
たったそれだけのことなのに、ジーニアスは一瞬だけ眠気が吹っ飛ぶ勢いで緊張した。
「ジーニアス?」
しかも、プレセアが目を覚ました。
慌てふためいたジーニアス、眠い目を擦って彼女は彼に言った。
「おやすみ。今日はありがとう。・・・・・好き」
ほんの少し笑顔を見せてくれた。
その言葉を言い終わると、再び枕に頭を擡げる。
やっぱりどこか親近感が沸く口調になっていたプレセア、
ジーニアスは少し彼女の感情が読み取れるようになったことと、最後の一言に大いに満足した!


翌日
二人の仲が深まったことを天もお祝いしたのか、雲ひとつないような快晴。
当然というか、海岸で遊びまくることにした。
ホテルの部屋を出る直前、プレセアは浮き輪を膨らましたジーニアスに聞いた。
「ジーニアス…きちんと隠れてる?」
同時に自分の頬を指差す。ジーニアスは虫眼鏡を持つようにゆっくりと近寄ると、
「えーと・・・大丈夫、これぐらいなら分からないよ!」
と答えた。
顔についているキスマークを隠しながら、二人は手を繋いで一緒にホテルから出てきた。
一晩で随分仲良くなった。
まるで、それまで芋虫と呼ばれていたのに数時間で誰もが振り返る美しい蝶へと成長するように。

海岸では、既にロイドやコレットが遊んでいる。何も無いのに転んだ。
ロイドがコレットの手を握って起こすと、プレセアもジーニアスの手をしっかりと握り、真顔で聞いた
「あの二人も昨日、私達みたいに身体を繋げたのでしょうか?」
「ど、どうだろうね・・・(少なくてもゼロスはやってるや)」
「それと、ジーニアス、お願いがあります。」
それまで仲睦まじい言葉だったが、思い出したように敬語になった。
でもそれはジーニアスから頼んだことだった。
「こういう風に喋るのは二人っきりのときにだけにして!」という、
自分は特別な人なんだと思いたい頼み。
プレセアはそれを二つ返事で承ると、いつもの無表情に戻った。
(表情まで戻さなくていいんだけどな〜)
といいつつ、プレセアの隠れた感情を知っているのは自分だけ、
という優越感に浸るのも悪くは無いや! と思っていた

「ジーニアス、聞いていますか?」
変な優越感に浸っていると、プレセアが隣で聞いてきた。
「え? あ! ごごっごめんプレセア、聞きそびれた!
今度はちゃんと聞くよ、一言一句逃さないから、もう一回だけでいいから言って!」
「あの…ですから、ロイドさんやゼロスくんには昨日のことは内緒にしておいてください。分かりましたか?
私もコレットさんやしいなさんには言いません。ですからジーニアスも内緒を通してください」
自分の唇に人差し指をあてて、「しぃー」と言った。
ジーニアスも同じ行動をとったが、「しぃー」とは言わなかった。
「もっちろん!」
代わりにそういった。

青々とした海、照りつける太陽、今日もまた楽しい一日が始まりそうだ。


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